第2編 簿記の基本原理

目  次

第1章 企業の財政状態を明らかにする
第1節 資産
(補)貨幣的評価の公準
第2節 負債
第3節 資本(純資産)
第4節 貸借対照表
第1項  貸借対照表の作成
第2項  流動比率・当座比率
(補)流動性配列法
第3項  財産法による純利益の算出

第2章 企業の経営成績を明らかにする
第1節 収益
第2節 費用
第3節 損益法による純利益の算出
(補)Going Concernの公準
第4節 損益計算書
第5節 損益計算書の見方

第3章 取引とは

第4章 仕訳とは
第1節 意義
第2節 勘定と勘定科目
第1項 意義
第2項 資産の勘定
第3項 負債の勘定
第4項 資本(純資産)の勘定
第5項 収益の勘定
第6項 費用の勘定
第7項 勘定記入法則
第3節 仕訳の具体例
(補)企業実体の公準
第4節 仕訳帳の形式

第5章 元帳転記
第1節 意義
第2節 元帳転記の実際例
第3節 元帳の形式
第4節 元帳転記の作業

第6章 試算表
第1節 試算表の作成
第2節 意義
第3節 試算表の構造 −まとめ−

第7章 精算表
第1節 意義
第2節 売上原価の算出
第1項 意義
第2項 期末決算整理仕訳
第3項 商品の評価と売上総利益
第3節 作成
第4節 精算表の構造

第8章 元帳締め切り(帳簿決算)
第1節 元帳締切りの手順(大陸式)
第2節 元帳締切りの手順(英米式)



第1章 企業の財政状態を明らかにする

イ、資産……財貨(現金・預金・建物・備品・土地etc.)
債権(売掛金・貸付金・未収金etc.)
ロ、負債……債務(買掛金・借入金・未払金etc.)
ハ、資本等式……資産−負債=資本(純資産)
ニ、貸借対照表等式…資産=負債+資本(純資産)
ホ、貸借対照表 (Balance Sheet; B/S)


第1節 資産

 企業の財政状態、つまり「企業の大きさや懐具合を明らかにする」ためには、具体的にどのようにすればいいのでしょうか。
 たとえば、あなた自身が、自分の財産を「人」に伝えようとすれば、まず、いまもっている「現金」が、いくらあるのかを伝えることから始めるのでしょうか。
 したがって、まず、企業が保有している「現金」の有り高を明らかにします。
 現金ばかりではなく「銀行預金」があれば、当然に明らかにします。同様に、「建物」「備品」「土地」などの財貨についても明らかにします。
 また、他人にお金を貸しているケースは、期日が到来すると現金が増えるのですから、「貸付金」は明らかにするべきです。「売掛金」……これは商品を販売したが代金を受取っていない、つまりツケにしてあげた債権をいいますが、これも明らかにするべきです。
 このような財貨および債権を、簿記では『資産』といいます。

(補)貨幣的評価の公準

 数学などでは各種の定理がありますが、その前提として「公理」というものがあるのだそうです。公理というのは、証明不可能であるとともに、また証明を要せず直接に自明の真実として承認された根本命題です。この公理ほど自明ではないが、証明不可能な命題で、学問上、実践上、原理として承認されているものを「公準」といいます。
 そして、簿記会計学の基礎的前提のひとつとして「貨幣的評価の公準」があります。
 「貨幣的評価の公準」とは、簿記の記録・計算・報告は、すべて貨幣額によって行うという前提です。すなわち、物理的数量・単位は用いない、ということです。このことは、貨幣的評価のできないものは、『資産』とはならないことを意味し、例えば人材は貨幣的評価が不能ですから、資産ではありません。また、反対に、貨幣的評価の可能なものは、『資産』となることを意味します。例えば、商標権などが挙げられるのです。

第2節 負債

 さて、『資産』を明らかにしただけでは、財政状態を表わしたことにはなりません。企業の負っています債務も報告する必要があります。すなわち「借入金」がいくらあるかを明らかにすべきです。同様に、「買掛金」……商品を仕入れたが、未だ支払っていない代金のこと、つまり売掛金の反対の状態を指しています。この他「未払金」「前受金」などの債務があります。
 このような債務を、簿記では、『負債』といいます。

第3節 資本(純資産)

 資産から負債を差し引くと、企業の正味財産がわかります。この正味財産のことを、簿記では、『資本(純資産)』といいます。
 正味財産といっても具体的な「もの」ではないので、『資本(純資産)』は、抽象的な概念です。
 このことを等式で表わすと、以下のようになります。

第4節 貸借対照表

 上記の「資本等式」を変形して、次のような等式を導き出すことができます。

 この等式を利用して、外部に報告する書式のことを『貸借対照表』(Balance Sheet)[B/S]といいます。

第1項  貸借対照表の作成

第2項  流動比率・当座比率

 この貸借対照表から「何を読み取るのか」が、問題です。例えば、西宮商店が1,000円の借金を申し込んできたとしましょう。銀行や関係企業としてのあなたは、お金を貸してあげますか?
 西宮商店は、1カ月以内に返済しなければならない「借金」…すなわち「買掛金・未払金」が 1,760円あります。この返済財源を保有しているのでしょうか。
a,左側に並んでいる資産のうち「現金・普通預金・売掛金」は、返済財源です。これらの合計 200+800+1,400=2,400円で、右側の「借金」が返済できるのかを、比率関係を調べてみます。

この比率を「当座比率」といい、 100%以上あれば、第一関門は合格だとされています。
b,また、商品は販売すれば現金が増えるのですから、返済財源の一部として考慮される余地があります。すなわち 200+800+1,400+1,300=3,700円と借金との比率関係は、次の通りです。

この比率を「流動比率」といい、 200%以上が望ましいとされています。

(補)流動性配列法

 このように貸借対照表の左右を見比べることにより、その企業の借金に対する返済能力を分析することができます。また、こうした要請に適するように、貸借対照表は、原則的に「お金」に近い…現金化しやすい順番に並べてあります。だから資産は、現金、預金…という順番で、負債は、買掛金が先で借入金が後ろに並べてあるのです。こうした並べ方を「流動性配列法」といいます。

第3項  財産法による純利益の算出

 貸借対照表の見方としては、上述したように
イ、左右で見比べる
というのが、有力な方法ですが、あわせて、
ロ、他社と見比べる
というのも忘れてはいけません。企業判断や分析をする場合、同業種、同規模の他企業や平均値と比較することができれば、より一層正確な判断ができるはずです。したがって、各種の統計数値やデータを収集しておく必要があります。
 さらに、次のような比較方法があります。
ハ、期間で見比べる
例えば、1月1日の貸借対照表と12月31日のそれとを比較してみます。


 五月五日に子供の背を柱に刻みます。このままでは駄目でして、翌年の五月五日に背比べをして、はじめて子供の成長具合がわかるのです。このように時点と時点とを結び付けると「期間」となり、静態的な記録が動態的(ダイナミック)な情報となります。1月1日を期間の初めで「期首」といい、12月31日を期間の終わりで「期末」といいます。
 上記の例でいえば、正味財産としての「資本金」が、期末145−期首130=15円増加しているのですから、子供であれば成長具合が、企業ですから成長=儲け、すなわち当期純利益が判明します。したがって、次の公式が導き出されます。

 したがって、期末に作成される貸借対照表は、次のような表現方法が用いられています。

 このようにして、正味財産としての「資本(純資産)」の変動から、企業の経営成績としての当期純利益を把握することができます。しかし、どのような経営活動や努力によって「利益」を獲得し、または「損失」となってしまったのかが、明らかではありません。
 そこで、私たちは、改めて「企業の経営成績を明らかにする」というテーマを考えていきたいと思います。


第2章 企業の経営成績を明らかにする

イ、収益……利益を増やす原因
(例)売上・受取手数料・受取家賃・受取利息etc.
ロ、費用……利益を減らす原因
(例)売上原価・給料・交通費・支払家賃・支払利息etc.
ハ、収益−費用=当期純利益
ニ、損益計算書等式……費用+当期純利益=収益
ホ、損益計算書 (Profit and Loss Statement; P/L)(Income Statement; I/S)

第1節 収益

 企業がいくら儲けたのか、つまり当期純利益を明らかにするためには、利益をもたらす要素を一つひとつ列挙してみる必要があります。
 その第一番目は「売上」です。売上高は企業努力を表わすもっとも端的な指標となっています。
 例えば、「ダイエー」がわが国最大の小売店であるというのは、売上高が2兆3000億円で業界トップだからです。また、「トヨタ自動車」が日本一であるのも8兆円近いの売上げを誇っているからです。因みに伊藤忠商事・三井物産・丸紅・三菱商事・住友商事などは各社とも10兆円超を売上げ、世界に「ソーゴーショウシャ」として、その名をとどろかせています。
 「売上」以外に、企業に利益をもたらす要素として、例えば、家賃を受取ること…「受取家賃」、他企業などにサービスを提供して受取ること…「受取手数料」、銀行より預金利息を受取ること…「受取利息」などを挙げることができます。
 簿記では、こうした利益にプラスをもたらす要素を「収益」といいます。
 さきほどの「期末資本−期首資本=当期純利益」の考え方からいえば、期末資本(純資産)が大きければ大きいほど利益は増加するのですから、「収益」とは、期末資本を増加させる要因ということができます。

第2節 費用

 さて、企業の営業活動である「売上」をもたらすためには、まず商品を仕入れて、その商品を引渡す必要があります。営業マンを雇えば、給料の支払いも発生するでしょう。そして広告のひとつもしなくてはならないのではないでしょうか。
 このような「売上原価」、「給料」、「広告費」などは、利益の計算でいえばマイナスの要素として働いています。
 簿記では、これらを「費用」と名付けています。
 「費用」は、「収益」とは反対の働きをしていますから、資本の減少要因ということができます。

第3節 損益法による純利益の算出

 1年間の企業活動の総括から、収益総額と費用総額を明らかにすることができると、次の式のように、その差額として「当期純利益」を算出することが可能となります。

 前章で挙げた「期末資本−期首資本=当期純利益」と計算する『財産法』に対して、「収益総額−費用総額=当期純利益」と計算する方法を『損益法』といいます。

(補)Going Concernの公準

「継続企業(Going Concern)の公準」ともいわれます。
 中世イタリアの冒険企業は、出資者を募り、集めた資金で船を購入し、漕手を雇って、地中海に乗出し、中近東方面からコショウなどを持ち帰り、これらを売却して莫大な利益をあげていました。この利益の計算はきわめて簡単で、全収入金額より、必要であった全支出金額を差引くことによって算出することができます。一航海が終わると「損益計算」をして、出資者に報告し、利益の配当を行なっていたのです。
 企業の経営成績を明らかにするためには、このように企業活動に「始まり」と「終り」があれば、この間の収入と支出の差額を計算することによって利益計算が可能となるのです。
 しかし、現代の企業は継続した営業活動を続けているので、いったん創業されると「終り」ということがありません。 そこで簿記会計では、企業活動は永久に継続するものと仮定して、つまり永久に活動し続ける企業(Going Concern)を前提としているのです。これを「継続企業の公準」といいます。
 こうした前提に立って、経営成績を算出するために、企業活動に人為的な「始まり」と「終り」をつくりだしています。すなわち、「期間」という区切りをもって、損益計算を行なうこととしているのです。したがって、この公準は「期間損益計算の公準」ともいわれます。
 「期間」は通常1年間が採られます。個人企業では1月1日〜12月31日の暦年にしたがい、会社は法令や定款などで定めた営業年度である1年または半年が用いられます。

第4節 損益計算書

 「収益総額−費用総額=当期純利益」の公式から、次の式を導き出すことができます。
(損益計算書等式)
 この等式を利用して、外部に報告する書式のことを『損益計算書(Profit and Loss Statement [P/L])』と名付けています。
 なお、アメリカでは(Income Statement)の用語が広く用いられているようで、[I/S]とも省略されます。

 損益計算書の書き方のポイントは、次の通りです。
イ、貸借対照表が「時点」を表わすのに対して、損益計算書では「期間」を明示しなければなりません。

ロ、損益計算書の左右の数字は一致せず、左側が不足の場合は「当期純利益」を表わし、右側が不足の場合は「当期純損失」を表わしています。

ハ、当期純利益・純損失とも、その文字・数字を赤記(朱記)することとなっています。

第5節 損益計算書の見方

 損益計算書の見方として、売上と売上原価の関係、売上と当期純利益の関係などを比率的に把握して、他企業との比較に用いています。
(例)

−まとめ−

簿記とは
  ↓
企業の経済活動を       →経営成績を『損益計算書』に
一定のルールに従って記録し  財政状態を『貸借対照表』に表し
                    ↓
               外部の利害関係者に報告する技術である


第3章 取引とは

企業の保有する資産・負債・資本のいずれかに増減変化をもたらすことがらを 取引という。

 さて、簿記の記録の対象となる「企業の経済活動」のことを、私たちは「取引」といっています。
 日常用語としての「取引」とほぼ同意ですが、若干異なる点があります。例えば、契約書にサインをするというのは、一般的には取引といいいますが、簿記上の「取引」ではありません。つまり記録の対象とはならないわけです。他方、火災で建物が焼失したとか、盗難に遭ったというのは、一般的には取引といわないのですが、簿記上の「取引」となり、記録にとどめられなければなりません。

 すなわち、簿記上の「取引」とは、企業の保有する資産・負債・資本のいずれかに増減変化をもたらすことがらをいいます。
 資産・負債・資本が増えたり減ったり変わったりするということは、貸借対照表に何らかの影響を及ぼすようなことがらが発生したならば、記録しなければならないということとなります。


第4章 仕訳とは

取引を原因と結果の2側面より把握して、勘定科目を用いて左右に分解、記録することを「仕訳(しわけ)」という。
記録すべき要点は、1,日付 2,金額 3,内容(原因と結果)の3点である。

第1節 意義

 さて、簿記では、こうした勘定科目を用いて「一定のルールにしたがって記録する」のですが、その記録の仕方を「仕訳(しわけ)」といっています。
 『仕訳』とは、企業の経済活動である「取引」をその発生原因と結果の2側面から把握して、「勘定科目」を用いて、左右に、つまり借方・貸方に分解・記録することです。

第2節 勘定と勘定科目

第1項 意義

イ、簿記・会計における記録・計算の単位を「勘定」という。
ロ、勘定に付した名称を「勘定科目」という。

 簿記は、企業の経済活動としての「取引」がおきると、一定のルールにしたがって帳簿に記入しなければならないのですが、この記入にあたって、簿記会計における記録・計算の単位を決めておかなければなりません。
 この記録・計算の単位を簿記では、「勘定」といい、勘定に付けられた名称を「勘定科目」といっています。
 例えば、「商品を販売して千円札5枚で受取った」といった取引があった場合に、「千円札」といった記録・計算の単位を用いずに、『現金』といった単位で記録しよう、ということです。なぜかというと、千円札であるか百円玉であるかは企業内部にとって意味があるかもしれませんが、「外部に報告する」という簿記の目的からは不必要でしょう。厳密いや、むしろ煩雑で、情報としては不適切ですから、「千円札」とは用いないで『現金』という勘定科目を用いて記録するのです。

 勘定科目の基本例を以下に挙げておきます。

第2項 資産の勘定

現金、銀行預金、売掛金、未収金、建物、備品、土地、貸付金など

第3項 負債の勘定

買掛金、未払金、借入金など

第4項 資本(純資産)の勘定

a,個人企業の場合は「資本金」のみ
b,株式会社の場合は「資本金、資本準備金、利益準備金」など

第5項 収益の勘定

売上、受取家賃、受取手数料、受取利息、雑益など

第6項 費用の勘定

売上原価、給料、交通費、通信費、消耗品費、雑費、支払利息など

第7項 勘定記入法則

 さて、勘定には、以下のような符号関係が決められています。
イ、資産は貸借対照表の左側(借方)にあるので、左を+(プラス)と定め、その反対側の右(貸方)は−(マイナス)となります。
ロ、負債は貸借対照表の右側(貸方)にあるので、右を+(プラス)と定め、その反対側の左(借方)は−(マイナス)となります。
ハ、資本は貸借対照表の右側(貸方)にあるので、右を+(プラス)と定め、その反対側の左(借方)は−(マイナス)となります。
ニ、収益は損益計算書の右側(貸方)にあるので、右を+(プラス)と定め、その反対側の左(借方)は−(マイナス)となります。
ホ、費用は損益計算書の左側(借方)にあるので、左を+(プラス)と定め、その反対側の右は−(マイナス)となります。

このような符号関係を「勘定の記入法則」と名付けています。


*簿記では左側を「借方(カリカタ)Debtor ; Dr.」といい、

     右側を「貸方(カシカタ)Creditor ; Cr.」といいます。

第3節 仕訳の具体例

イ、例題

 (例)3月23日、天候は快晴。家具販売を営業とする当社の営業部員A氏が、かねてより交渉していた得意先甲商店に机10台(@25円)を販売し、代金は現金にて受取った。

ロ、考え方

 以上の例題の企業活動のうち、記録に残すべきものと残さなくてもよいものとに分類してみましよう。
「3月23日」……記録であるから当然に残します。
「天候は快晴」……企業の経済活動とは無縁であるから残しません。
「営業部員A」……経済活動とは無縁であるから残しません。簿記では原則的に人事・組織の問題は取扱わないのです。
「得意先甲商店」……記録に残すのか、不要であるかは、この一部分だけでは、結論がだせません。例題の末尾に「現金を受取る」とあれば、不要です。「掛け(ツケ)とした」とあれば、記録する必要があります。よって、この(例)の場合は、記録に残さなくてよいのです。
「机10台(@25円)」……ここで「商品」というものを考えておきたいのですが、一般に「物」には、物そのものの利用価値(使用価値)と金額で表わされる経済価値(交換価値)とがあります。私たち消費者は使用価値を獲得するために物を購入するのですが、企業はこの交換価値の側面に注目して、購入・販売活動を繰返し、交換価値の差額を利益として獲得していくのです。すなわち消費者にとって物は、一般的な物ではなくて使用価値をもった物、つまり机とか本とか特定的な名称でもって呼ばれる対象として把握します。しかし、企業はG−W−G´に定式化されるように、より大きな貨幣に交換される物でさえあればよいので、無名的な「商品」として把握しています。具体的にいえば、消費者にとって「机」は食事のため、読書のために使用される机ですが、家具店にとって机は机ではなく「商品」です。同様に書籍店にとって本は本ではなく「商品」です。
よって、この(例)の場合、原則として「机」は記録されません。そして、貨幣的評価の公準ということですから、「10台」も記録されません。結果、「250円」という金額だけが記録の対象となります。
「販売し」……取引の内容ですから、記録されます。
「代金は現金にて受取った」……取引の内容ですから、記録されます。
以上のところを要約しますと、1、日付、2、金額、3、取引内容(原因と結果)の3点4ヵ所にアンダーラインを引くことができればよいのです。

ハ、取引の内容

 以上の内容を、簡潔に書き表してみると、次のように表現できます。
3月23日現金が250円増加した………売上が250円発生した
(結 果) (原 因)

 さて、ここで上述の勘定記入法則を思い出してほしいのです。
a,現金は資産の勘定科目ですから借方(左)がプラスの位置、すなわち「増加」と決まっているのです。とすれば、改めて「現金の増加」と書かなくともよいのではないでしょうか。
b,同様に、売上は収益の勘定科目ですから、貸方(右)がプラスの位置、すなわち「発生」ですから、改めて「売上の発生」と書く必要がありません。
そこで、仕訳はつぎのようになります。

ニ、仕訳

 3/23 (現 金)250 (売 上)250

ホ、仕訳のポイント

 仕訳にあたっての基本的な要領をまとめると、次のようになります。

  1. まず、その取引によって、現金が増加したのか、減少したのかを把握することです。
    • 現金が増加であれば、借方(左)に「現金」をまず記入します。
    • 現金が減少であれば、貸方(右)に「現金」をまず記入します。
  2. 収益である「売上」は、原則的に貸方(右)に記入します。
  3. 費用の諸勘定は借方(左)に記入します。

 この3つのポイントをしっかり覚えてください。
 基本的な問題であれば、問題を読み始めて仕訳を書き終わるまでの所要時間を「30秒以内」になるように繰返し練習する必要があります。

第4節 仕訳帳の形式

「帳簿組織」については、章をあらためることとし、ここでは、古典的な「綴込式帳簿」としての仕訳帳のフォームを示しておきます。

(補)企業実体の公準

 簿記会計の行われる場所的範囲としての「企業」というものが、実体的に存在しているという前提です。
 したがって、個人企業においても、家計とは別個の「企業」というものが存在し、この企業活動の記録・計算するのが、簿記会計の任務であるということになります。
 また、複合企業体の場合、それぞれの事業体ごとに実体的に「企業」が成立し、それぞれの経営成績と財政状態を把握することを要請する基準となります。


第5章 元帳転記

 「取引」を「仕訳」したあとに、各勘定科目の「口座」ごとに分類することを「元帳転記」という。

第1節 意義

 企業の経済活動である取引をその発生順序にしたがって仕訳をするのですが、勘定科目を用いて借方(左)と貸方(右)に分解しただけの記録から、ただちに企業の経営成績と財政状態をあらわす損益計算書・貸借対照表を作成することはできません。
 「分解」作業としての仕訳ののちに、勘定科目ごとに「分類」作業をしなければならないのです。すなわち、仕訳を終えるごとに、勘定科目ごとに個別に「元帳」に転記をしなければならないのです。
 元帳転記にあたって用いられるルールは、「左(借方)のものは左(借方)へ」「右(貸方)のものは右(貸方)へ」という単純なものです。この分類作業としての「元帳転記」はきわめて機械的な作業となっています。

第2節 元帳転記の実際例

元帳転記の要領を、例を挙げて説明します。
(仕訳)3/23(現 金)250(売 上)250
元帳転記 まず、上記の仕訳でみると、借方(左側)に「現金」勘定がありますから、
現金勘定の借方(左側)に日付と金額を「転記」すればいいのです。
そのうえで、現金から見て相手となっている勘定科目の「売上」を
メモとして記入します。

次に、上記の仕訳でみると、貸方(右側)に「売上」勘定がありますから、
売上勘定の貸方(右側)に日付と金額を「転記」すればいいのです。
そのうえで、売上から見て相手となっている勘定科目の「現金」を
メモとして記入します。
注意事項
相手勘定科目の記入の場合において、複数の相手勘定科目があるときは
「諸口」と書いておきます。
「諸口」の意味は、複数あるので、具体的には、仕訳そのものを参照…
ということです。

 なお、「元帳転記」の実務においては、下記のように、相手勘定科目を
省略することもあります。
(仕訳)3/23(現 金)250(売 上)250
元帳転記 まず、上記の仕訳でみると、借方(左側)に「現金」勘定がありますから、
現金勘定の借方(左側)に日付と金額を「転記」すればいいのです。

次に、上記の仕訳でみると、貸方(右側)に「売上」勘定がありますから、
売上勘定の貸方(右側)に日付と金額を「転記」すればいいのです。

第3節 元帳の形式

イ、標準式

ロ、Tフォーム

ハ、残高式

第4節 元帳転記の作業

イ、元帳転記の作業は一つの仕訳ごとに行なうのを原則とします。
 しかし、実際的にはある一定期間ごとにまとめて元帳転記を行なう方が、効率的で、しかも誤りは少なくなるようです。
 この場合、仕訳の借方(左)勘定科目を日付順に追い、現金勘定ばかりを拾い出して一気に転記し、終われば、次の売掛金勘定ばかりを転記し、順次借方の全ての勘定科目の転記を終えます。仕訳の借方(左)勘定科目を終えると、次は仕訳の貸方(右)勘定科目に移り、同様の手順で進めていきます。
 転記作業は機械的で単純なためにミス(左右まちがい、記入勘定まちがい、二重転記、転記漏れ、とくに数字の桁違いや入れ違いなど)が発生しやすいので、元帳転記は細心の注意が払われるべきです。

ロ、元帳転記は、きわめて面倒で、かつ誤りの発生し易い作業ですから、その作業量を減らす工夫が様様に考えられています。
a,そのひとつは、現金出納帳などの補助記入帳に「特別欄」を設けて合計転記をする方法が考えられています。
b,また、現金出納帳などの補助記入帳を仕訳帳とみなす「特殊仕訳帳制度」を導入すると、転記作業量は激減します。
ハ、なお、OA時代の今日では、経理事務に「コンピュータ」を導入する企業が増加しており、この元帳転記作業は、機械(コンピュータ)入力作業に置き換えられつつあります。

−まとめ−

 取  引
   ↓
 仕  訳 → 元帳転記 → 試 算 表
 (分解)   (分類)   (集計)
     期中        期末


第6章 試算表(Trial Balance ; T/B )

第1節 試算表の作成

 取引を仕訳し、これに基づき元帳転記をしたのちに「試算表」が作成されます。「分解(仕訳)」して「分類(元帳転記)」し、これらにつづく「集計」作業として位置付けることができます。
 試算表の形式は、以下のとおりです。

第2節 意義

その1
 合計試算表は仕訳から元帳転記が正しく行われたか否かの検証(チェック)機能を有し、期末に作成されるのが、原則となっています。
 なお、銀行などの「正確性」を至上課題とする企業では、毎日、試算表を作成しますので、日計表と呼ばれます。
 なぜ試算表に検証能力があるのかといいますと、簿記では「貸借平均の原理」と呼ぶのですが、各仕訳の一組は貸借同金額を記入しています。だから、当然に仕訳の総合計は貸借一致しています。さらに、仕訳の借方金額は元帳の借方に、仕訳の貸方金額は元帳の貸方に転記するのですから、元帳転記が正確に行われている限り、合計試算表の貸借総合計は一致し、かつ仕訳の総合計とも一致するのです。
 つまり、試算表の貸借が一致しない場合、および仕訳帳の総合計と一致しない場合は、元帳転記に誤りがあったとチェックできるのです。
 もし一致しない場合は、転記ミスがあったのですから、調べて訂正しなければなりません。

 調査の仕方の有力な方法は、次の通りです。
a,貸借の差額・仕訳合計との差額を求めて、記入漏れまたは二重転記を探します。
b,貸借などの差額を「9」で割算して、割切れた場合は、商の数について桁違い(例えば100,000 を10,000と記入した場合)または入違い(例えば69,000を96,000と記入した場合)を探します。
c,差額を「2」で割った数について、貸借反対に記入していないかを調べます。  ただし、現金勘定に転記すべきを売掛金勘定に記入したというような口座誤りや、貸借完全な二重転記などは、チェックされないので合計試算表の検証能力には限界があるといえます。

その2
 残高試算表からは、その作成時点でのおおよその経営成績と財政状態を把握することができますので、企業のおかれている現状を分析したり、新たな経営指針を打出すのに役立ちます。
 このような意味から、各企業では、毎月末・毎週末などには必ず作成しています。この場合には、月計表・週計表と呼ばれることとなります。
 すなわち、試算表の上部には「資産・負債・資本」が集計されているのでから、おおよその財政状態をうかがい知ることができますし、下部には「収益・費用」が表示されているので、経営成績の概略を把握することが可能です。
 しかし、そのためには試算表の勘定科目を一定のルールで並べておかなければなりません。通常、「資産・負債・資本・収益・費用」の順に配置されています。資産は現金から始まって、以下現金化しやすい順に配列し、土地などの固定性の強いものを最後尾に置くという「流動性配列法」が採用され、負債も支払期日が早く到来する順に配列しています。また、収益・費用については売上、仕入・給料などの相対的に重要な順に配列することとなります。重要性は、主たる営業活動に関連しているとか、金額が多いなどが基準となります。

第3節 試算表の構造


(試算表等式)

[例題1] 次の取引を仕訳しなさい。
7月1日 A氏は、現金 500,000円を出資して甲山商店を開業した。
  3日 尼崎商店から商品 120,000円を仕入れ、代金は現金で支払う。
  5日 西宮銀行から現金 400,000円を借り入れた。
  7日 芦屋商会に商品を80,000円で売上げ、代金は現金で受取る。
  9日 伊丹商店から商品 370,000円を仕入れ、代金は現金で支払う。
  11日 陳列棚(備品勘定)を55,000円で購入し、現金で支払った。
  13日 宝塚商会に商品を 290,000円で売上げ、代金は現金で受取る。
  15日 帳簿(消耗品費勘定)を購入し、代金 9,600円は現金で支払った。
  17日 三田商店から商品 170,000円を仕入れ、代金は現金で支払う。
  19日 神戸商会に商品を 220,000円で売上げ、代金は現金で受取る。
  21日 商品売買の仲介をし、手数料18,000円を現金で受取った。
  23日 西宮銀行に対し、借入金の利息 2,400円を現金で支払った。
  25日 従業員の給料 150,000円を現金で支払った。
  27日 豊中商店から商品80,000円を仕入れ、代金は現金で支払った。
  29日 吹田商会に商品を 220,000円で売上げ、代金は現金で受取る。
  31日 雑費 2,800円を現金で支払った。

[例題2] 次の取引を仕訳しなさい。
8月1日 A氏は、現金 1,500,000円を出資して甲山商店を開業した。
  6日 尼崎商店から商品 620,000円を仕入れ、代金は現金で支払う。
  8日 西宮銀行から現金 1,200,000円を借り入れた。
  11日 芦屋商会に商品を800,000円で売上げ、代金は現金で受取る。
  14日 伊丹商店から商品 570,000円を仕入れ、代金は現金で支払う。
  16日 陳列棚(備品勘定)を358,000円で購入し、現金で支払った。
  19日 宝塚商会に商品を 690,000円で売上げ、代金は現金で受取る。
  21日 帳簿(消耗品費勘定)を購入し、代金 39,800円は現金で支払った。
  22日 商品売買の仲介をし、手数料518,000円を現金で受取った。
  24日 西宮銀行に対し、借入金の利息 102,700円を現金で支払った。
  25日 従業員の給料 750,000円を現金で支払った。
  26日 豊中商店から商品180,000円を仕入れ、代金は現金で支払った。
  28日 吹田商会に商品を 520,000円で売上げ、代金は現金で受取る。
  31日 雑費 45,200円を現金で支払った。

例題1(仕訳)

例題2(仕訳)

[例題3] 例題1の仕訳を総勘定元帳に転記しなさい。

例題3(元帳転記)

[例題4] 例題3の元帳から試算表を作成しなさい。

例題4(試算表)


−まとめ−
取引
(分解)(分類)(集計)
仕訳元帳転記試算表決算整理(精算表)損益計算書
元帳締切(帳簿決算)貸借対照表
〔期  中〕
〔期  末〕
=簿記一巡の手続き=


第7章 精算表(Working Sheet ; W/S )

第1節 意義

 残高試算表から「期末決算整理」を通して、損益計算書・貸借対照表を誘導・作成する一覧表を「精算表」といいます。
 精算表には、8桁(欄)精算表・10桁(欄)精算表などがありますが、一般的には商業簿記では8桁(欄)精算表が用いられ、工業簿記では10桁(欄)精算表を用いることが多いといえます。
 8桁(欄)精算表の形式は、次のとおりです。

第2節 売上原価の算出

第1項 意義

 練習問題などを通して記帳してきた私たちの「仕訳」を検討してみますと、
(例1)商品を600円にて現金仕入れをした。
(例2)上記の商品の内2/3 を515円にて現金販売をした。

仕訳(例1)(仕  入)600(現  金)600
(例2)(現  金)515(売  上)515

元帳転記
となっているはずです。
 さて、いま期末にあって外部に経営成績を報告しなければならないのですが、上記の仕訳や元帳から、いくらの利益があったのかは明らかではありません。そこで期末に整理整頓をして利益額を算出する必要があるのです。

 以上の関係を図解してみると、次のとおりとなります。


 ここにプールがあるとして、上部から水が流入できるようになっています。この蛇口にはメーターが設置されており、水の流入量は把握できています。すなわち、仕入600と記録されているのです。
 さて、プールの下部にも蛇口が取付けられているのですが、出口にはメーターが設置されていません。水を買いたいという客が来れば、手加減サジ加減で蛇口をひねるのです。一見の客なればチョロチョロと出し、常連のお得意さんなればジャーと出して……といったふうに蛇口は任意に操作されているのです。結果、売上原価は?円となって、売上高だけは515円と記録されているのです。
 さて、そこで売上原価を算出しなければならないのですが、考え方は、プールに溜められたであろう満水量からプールの底に残った水量を差引きすれば、流出した水量が算出できるのです。
 すなわち、「当期仕入高−期末商品=売上原価」の公式を導きだすことができます。
 なお、期末売残り商品であるプールの底に残った水量は、実際に量ってみなければ判明しません。このことを「実地棚卸する」といいます。

 したがって、売れ残りの商品が200円分あったとするならば、「売上原価」は、600-200=400円と、計算によって求めることができるのです。

第2項 期末決算整理仕訳

 以上の考え方を帳簿記入するのですが、期末におこないますので「決算整理仕訳」といいます。
 決算整理仕訳の方法は、仕入れた商品は一旦全部売れたと考え、そのうえで、実地棚卸により把握した売残り商品を計上します。
 すなわち、
(期末)イ(売上原価)600(仕  入)600
(繰越商品)200(売上原価)200

元帳転記   

第3項 商品の評価と売上総利益

 以上の関係を、もう少し検討してみましょう。

 さて、まず最初に、売上高から売上原価を引いた差額のことを、簿記会計では「売上総利益」と名づけているので、覚えておいていただきたいと思います。粗利益と表現することもあります。
 そうすると、売上高を分母に、売上総利益を分子にして「売上総利益率」を算出することができます。115÷515×100=22.3%ということになりますから、この店は100円売り上げると22円儲けているということが、わかります。
 逆にいえば、売上原価78円の商品を100円で売っているのだ、ということになります。この関係を「売上原価率」といいます。
 「売上原価率」は、売上高を分母に、売上原価を分子にして求めることができます。したがって、「売上総利益率」とは『補数』の関係にあります。
 つまり、400÷515×100=77.7%として求めることができますが、100%−売上総利益率22.3%=77.7%としても求めることができるのです。

 もうひとつ検討しておきたいのは、売れ残り商品の問題です。売れ残り…期末商品の価格が200円であれば、上記のような計算が成り立つのですが、所詮「売れ残り」です。現在の値打ちが下がっていて、150円の価格だったとすれば、上の計算式はどうなるのでしょう。

 この関係をしっかりと理解してください。
 期末商品を小さく評価すると、売上原価は大きくなるのです。したがって、売上総利益は小さくなるのです。
 逆にいえば、期末商品を大きく評価すると、売上原価は小さくなるのです。したがって、売上総利益は大きくなるのです。…意図的におこなえば、これが「粉飾決算」ということになり、企業の存在を危うくするものです。
 したがって、期末の売れ残り商品に「いくらの金額」でもって評価するのかは、経営成績に非常に重大な影響があります。簿記会計では、適正な評価を要請しています。

第3節 作成

[例題5] 例題4の試算表から、精算表を完成させなさい。
なお期末商品は、実地棚卸しの結果、100,000円であった。

例題5(精算表)

第4節 精算表の構造


第8章 元帳締め切り(帳簿決算)

 簿記の前提となっている継続企業(Going Concern)においては、すでに説明しましたように「1年」を区切りとして、その期間の経営成績を明らかにし、期末の財政状態を報告しなければなりません。
 そのためには、企業の経済活動を記録した仕訳に基づいて作成された元帳の記入内容を整理し、計算しなければならないのです。この一連の手続きを「決算」といいます。
 決算は、イ、試算表の作成、ロ、棚卸表の作成と決算整理(精算表)、ハ、帳簿決算、ニ、損益計算書・貸借対照表の作成の4段階にわけることができます。

(イ)試算表は、仕訳から元帳転記が正しく行われたか否かを確めるために作成されることは、すでに説明したとおりです。元帳の記録・計算が正確に行われていて、はじめて正確な損益計算書と貸借対照表が作成できるのですから、欠くことのできない手順として位置付けられています。

(ロ)棚卸表の作成と決算整理(精算表)は、元帳に記録された内容がかならずしも正しいとは限らないので、期末における資産・負債の実際を調査して一覧表(棚卸表)を作成し、元帳の内容を事実に調整・整理する手続きです。
 期中における仕訳は、主として現金収支にともなう取引か、または商品などの現物の受払いによる取引だけに基づいて行われており、企業の経済活動の全てにわたって記録されているわけではありません。たとえば、自動車などは利用すればするほどその価値が減少していくといった経済的な事実は、記録する機会がないので、仕訳されていないのです。
 期中における仕訳は、以上のような限定的な記録ですから、この仕訳から転記された元帳の内容がかならずしも正しいとは限らないので、期末における資産・負債の実際を調査して一覧表(棚卸表)を作成し、元帳の内容を事実に調整・整理する必要があります。決算整理は、決算手続きのうちもっとも重要な過程となっています。
 決算整理のひとつで、もっとも重要な売上原価の算出については、すでに説明したとおりです。
 以上の(イ)(ロ)の手続きは「決算予備手続き」とよばれています。

(ハ)帳簿決算は、「決算本手続き」ともいわれ、決算整理によって内容的に正しい記録となった元帳から、当期の経営成績と期末の財政状態を明らかにするとともに、各帳簿を締切ります。したがって、「帳簿締切り」ともよばれています。

(ニ)損益計算書・貸借対照表は、締切られた元帳の記録に基づいて作成されます。
 外部の利害関係者に報告する財務諸表(損益計算書・貸借対照表・財務諸表付属明細表・利益処分計算書・営業報告書)は、商法(計算書類規則)・証券取引法(財務諸表規則)などの法規にしたがって、理解しやすい形式で明瞭に表示されなければならないこととなっています。
 なお、この部分は「簿記」の範囲を超えており、「財務諸表論」「会計学」の分野に属することとされています。

第1節 元帳締切りの手順(大陸式)

 元帳締切りは、事前に作成された「精算表」で表わされた損益計算書と貸借対照表を元帳の上に表現することです。
 したがって、精算表をみながら、以下の手順にしたがって、仕訳・元帳転記および締切りの作業を押し進めることとなります。
 なお、帳簿決算のためには損益計算書を表わすための「損益勘定」、貸借対照表を表わすための「残高勘定」を設ける必要があります。これらの勘定科目は決算集合勘定とよばれています。

 手順イ、収益の諸勘定科目を借方(左)に、損益勘定を貸方(右)にして仕訳して、各元帳に転記します。
(売   上)×××(損  益)×××
(受取利息)×××

 手順ロ、損益勘定を借方(左)に、費用の諸勘定科目を貸方(右)にして仕訳して、各元帳に転記します。
(損  益)×××(売上原価)×××
(給   料)×××

 以上の手順により「収益・費用」に関する諸勘定の元帳の貸借金額がそれぞれに一致して、締切ることができます。

 なお、「損益勘定」への元帳記入は金額を一括に記入しないで、各収益・費用ごとの金額を個別的に記入し、摘要欄にも各勘定名を明記しておく必要があります。損益勘定とは損益計算書に他ならないからです。

 手順ハ、損益勘定の貸借金額の差額を計算して、
    a.貸方(右)残高となっていれば、「当期純利益」を表わします。当期純利益は資本の増加をもたらすので、個人企業の場合は、「資本金勘定」に振替えます。(株式会社の場合は、「未処分利益勘定」に振替えます)
(損  益)×××(資本金 )×××
    b.借方(左)残高となっていれば「当期純損失」を表わします。当期純損失は資本の減少をもたらすので、個人企業の場合は、「資本金勘定」に振替えます。(株式会社の場合は、「未処理損失勘定」に振替えます)
(資本金 )×××(損  益)×××         
以上の手順により損益勘定の貸借金額が一致して、締切ることができます。

 手順ニ、残高勘定を借方(左)に、資産の諸勘定科目を貸方(右)にして仕訳して、各元帳に転記します。
(残  高)×××(現  金)×××
(建  物)×××

 手順ホ、負債・資本の諸勘定科目を借方(左)に、残高勘定を貸方(右)にして仕訳して、各元帳に転記します。
(買掛金 )×××(残  高)×××
(借入金 )×××
(資本金 )×××

 以上の手順により、「資産・負債・資本」に関する諸勘定の元帳の貸借金額がそれぞれに一致して、締切ることができる、と同時に、残高勘定もまた自動的に貸借金額が一致して元帳が締切られることとなります。
 残高勘定が自動的に貸借一致する性質をもって、しばしば「残高勘定に残高なし」といわれています。

 なお、「残高勘定」への元帳記入もまた金額を一括に記入しないで、各資産・負債・資本ごとの金額を個別的に記入し、摘要欄にも各勘定名を明記しておく必要があります。残高勘定とは貸借対照表に他ならないからです。

 以上の手続きを「大陸式」といい、複式簿記の発生の地であるイタリアをはじめ、フランス・ドイツなどで用いられている原則的な帳簿締切りの方法です。

開始記入(大陸式)
 以上の手続きで元帳はすべて締切られ、1年の会計期間は終了するのですが、継続企業の立場からいえば、企業活動は休むことなく続けられているのですから、ひき続き「帳簿記入」が行われる必要があります。すなわち、翌日付でもって「開始記入」を行なわなければならないのです。
開始記入は「残高勘定」の内容に沿って、以下のとおり仕訳をします。
(現  金)×××(買掛金 )×××
(建  物)×××(借入金 )×××
(資本金 )×××

この開始仕訳の場合、転記した元帳の摘要欄には、内容を明示するために前期繰越」と記入しておくのが適切です。

第2節 元帳締切りの手順(英米式)

 以上の大陸式に対して、イギリスやアメリカなどでは簡便な方法が用いられ、この方法は、英米式とよばれています。
 英米式では、上述の手順(イ)(ロ)(ハ)までは同様の手続きを採用するのですが、資産・負債・資本の勘定科目では、仕訳を省略して元帳の上だけで締切りを行ないます。すなわち、元帳の残高が借方残であれば貸方(右)に、貸方残であれば借方(左)に、貸借逆方向に期末の日付でもって「次期繰越×××」と朱記記入して締切る、と同時に、翌期首の日付でもって「前期繰越」と振り戻しておきます。
 具体的に示すと以下のとおりです。


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