第5編 帳簿組織論


目  次


	第1章 はじめに

第2章 帳簿式会計
第1節 綴り込み式帳簿
第2節 ルーズリーフ式帳簿
第3節 伝票式帳簿
第1項 意義
第2項 三伝票制
第3項 複合仕訳と単純仕訳
第4節 仕訳帳の分割

第3章 伝票式会計

第4章 コンピュータ会計
第1節 コンピュータ会計
第2節 経理業務とパソコン


第1章 はじめに

 「簿記」という用語が、「帳簿記入」の省略形として、造語されたものであることは、よく知られていることと思われます。
 したがって「簿記を学ぶ」こととは、「帳簿に記録することを学ぶ」ことに他ならないのですが、この「帳簿」とは、記録・計算の単位ごとに設けられた帳簿=『総勘定元帳』を指しています。
 この「元帳記入」の準備として、時間系列的に「取引」を記録し、勘定記入の内容を指示し、二重記録や遺漏を防ぐ組織的記録としての日記帳として『仕訳帳』が備え付けられています。

 複式簿記においては、この「仕訳帳」と「総勘定元帳」を主要簿と呼び、その他の補助簿との二つの組織系統から成り立っています。
 すなわち、


 1)主要簿…仕訳帳・総勘定元帳
 2)補助簿
   イ、補助記入帳現金出納帳、仕入帳、売上帳、手形記入帳etc
   ロ、補助元帳得意先元帳、仕入先元帳、商品有高帳etc


*補助記入帳は、総勘定元帳のうちのある勘定についての「発生順・詳細」を記録するものです。
具体的にいえば、
「現金a/c」についての発生順・詳細記録にあたる「現金出納帳」
「仕入a/c」についての発生順・詳細記録にあたる「仕入帳」
「売上a/c」についての発生順・詳細記録にあたる「売上帳」
という関係です。

*補助元帳は、総勘定元帳のうちの統制勘定についての「明細・内訳」を記録するものです。
具体的にいえば、
「売掛金a/c」についての明細内訳にあたる「得意先元帳」
「買掛金a/c」についての明細内訳にあたる「仕入先元帳」
「繰越商品a/c」についての明細内訳にあたる「商品有高帳」
という関係です。

 ここでは、簿記を学ぶ一環として、道具としての「帳簿」についてふれておきたいと考えます。
 「帳簿」という立場から簿記を考えてみますと、大きく「帳簿会計」「伝票会計」「コンピュータ会計」の三つに分けることができます。


第2章 帳簿式会計

 「帳簿会計」というのは、通常の「簿記」の教本が取り扱っている分野で、さらにこの分野は、三段階に分けることができます。

第1節 綴り込み式帳簿

 きわめて堅牢な装丁であり、頁数も予め付けられ製本された「帳簿」に、企業活動を記録していくものです。改竄(カイザン)や散逸(サンイツ)の虞(オソレ)がほとんどないので、事故防止に役立ち信憑性が高く、古くから現在に至るまで用いられています。
 しかし、一冊のノートというのは、一人しか記録に携わることができないので、業務量が多くなってくると到底対応できなくなるというわけで、現在の大・中企業では用いられなくなっています。

第2節 ルーズリーフ式帳簿

 多くの人人が記録に携わるために、ノートを分解して用いるようになったのが、ルーズリーフ式帳簿で、ノートの散逸を防ぐために「バインダー」によって綴り込む方法が採られるようになりました。
 わが国では昭和の初期から少しずつ用いられ、1950年代以降、多くの企業で用いられているようです。
 ルーズリーフ式帳簿は、綴り込み式帳簿に比して、業務処理面において、はるかに効率的ですが、改竄や散逸の危険性が高く、証拠能力は著しく損なわれています。

第3節 伝票式帳簿

第1項 意義

 もともと伝票とは、発生した企業活動をいち早くメモし、企業内部に伝達する資料ですが、これを経理記録に用いようとするのが伝票式帳簿です。
 一つの取引を一葉の紙片に記録する方法で、「入金伝票・出金伝票・振替伝票」の三伝票制度が多く用いられているようです。
 「三伝票制度」とは、企業活動は多種多様にわたっているけれども、その多くが現金の収支を伴う点において共通していることに着眼して、現金収支を伴う活動を入金・出金伝票に記録させ、例外的な現金収支を伴わない活動記録だけに振替伝票を用いる方法です。掛取引・信用取引の多い企業では、さらに「仕入伝票・売上伝票」を追加した五伝票制度が採られています。
 伝票式帳簿の特徴は、簿記に関する専門的知識を有しないかもしれないが、企業活動の最前線で活躍する人人に活動内容を記録させるという意味で、大量の記録がきわめて迅速に、しかも的確に捕捉することができることです。また、一定のパターンで記録されているので、総勘定元帳への分類・転記が容易となっています。

第2項 三伝票制

 企業における日常的な取引は、大きく二つに分けることができます。
 すなわち、「現金取引」と「現金収支をともなわない取引」の二つです。
 そこで、前者の取引には、「入金伝票」と「出金伝票」を用い、後者の取引には「振替伝票」を用いて、仕訳を記入する方法を三伝票制といい、以下のような伝票の形式となっています。



第3項 複合仕訳と単純仕訳

 三伝票制が導入されると、以下のような複合仕訳を、どのように伝票で表すのかということが問題となってきます。
(例題)商品150,000円を仕入れ、50,000を現金にて支払、残額は掛とした。
−仕訳−
(仕 入)150,000(現  金)
50,000
(買掛金)100,000

 さて、このような複合仕訳を「伝票」にて処理するためには、単純仕訳(勘定科目が借方・貸方それぞれ1対1で対応している)に分解する必要があります。
 いわゆる「簿記書」には、様様な方法が説かれていますが、以下のように考えるのが至当です。

1)商品売買取引全体を、原則として、掛取引であったと仮定して、「振替伝票」を用いて仕訳します。
−仕訳−
(仕 入)150,000   (買掛金)150,000

2)この掛取引によって生じた買掛金の一部を直ちに返済したものとみなして、「出金伝票」に記録します。
−仕訳−
(買掛金) 50,000   (現 金) 50,000

第4節 仕訳帳の分割

 帳簿組織の改良は、既述のように「協働」の要請から、ノート(帳簿)形態そのものの変化しただけではなく、記帳上の簡素化という方向で進みました。
 具体的には、(1)主要簿と補助簿との重複記入の回避、(2)元帳転記の作業手数の削減等の実現です。
 そこで、「仕訳帳の分割」がおこなわれるようになったのです。
 現金出納帳、仕入帳や売上帳などの補助記入帳を主要簿に編入して、「特殊仕訳帳」とし、特殊仕訳帳に記入した取引は、従前の「仕訳帳」への記入作業を省略させるのです。また、「特殊仕訳帳」には、頻繁に出現する取引形態に対応する「特別欄」を設けて記入し、総勘定元帳への転記は、個別転記から、月単位による合計転記へと、大幅な手数の削減が実現したのです。


第3章 伝票会計

 伝票会計は、伝票によって記録をするというだけではなく、「複写記入」によって転記の手数を省き、複写された伝票を総勘定元帳や補助簿としてファイルし、その代用とする「会計組織」です。したがって、企業活動は迅速に記録されるだけでなく、正確に分類・整理される点において「帳簿会計」より格段に能率的です。
 伝票会計の基本的な注意点を挙げると、起票はすべて単純仕訳で行うとともに、ワンライティング(One Wrighting System)により複数枚の伝票を同時に作成し、かつ起票後は直ちにそれぞれの帳簿にファイリングすることである、といえます。
 伝票会計が企業実務で主流となったのは、Gペン・万年筆に代わる筆記用具である、細くて・硬くて・消えない「ボールペン」とノーカーボン紙が誕生し、普及した1970年代以降で、比較的新しい会計ですが、ランニングコストが、比較的かかることが難点とされています。


第4章 コンピュータ会計(EDP会計)

 「帳簿会計」にとって不可欠であった転記作業を省いた点において、「伝票会計」は画期的でありましたが、「帳簿会計・伝票会計」という手記会計からペーパーレスを目指す「コンピュータ会計」が登場し、会計システムは、その全体を広く、深く、また根底的な見直しを迫られるという質的な変化をとげつつあるといわれています。

第1節 コンピュータ会計

a.
 手記会計による会計システムのうち、元帳転記の作業をコンピュータへの入力に置き換えるというのが「コンピュータ会計」への入り口であるといえます。
 しかし、この利用形態にとどまる限りは、分類・集計を機械化したにすぎないのであって、多くの場合、ワンライティングシステムの伝票会計の方が手間もかからず、低コストであり、迅速な会計処理さえ期待できます。つまりコンピュータを高速ソロバンとして用いているのであって、システムの高度化・効率化は図られていないというべきでしょう。
 ただ、この場合であっても、コンピュータ処理の前提条件ともいうべき勘定科目コード、相手先コードなどのコード化項目が必要であり、コード化にあたり、機能的・合理的に設計されるならば、利便性や次のステップへの拡張性の確保に役立つにちがいないのです。

b.
 仕訳伝票を起票してから入力するのではなく、原始証憑から直接にコンピュータに入力するという、いわゆる「伝票レス会計」が考えられるようになってきています。伝票レス会計の具体的な方法としては、ワンライティングシステムの一環として、原始証憑を作成することによって、仕訳伝票を複写式に作成して、コンピュータへ入力する方法が採られます。さらにすすんだ方法としては、コンピュータを使って原始証憑を作成し、この作成入力作業がコンピュータシステムによって仕訳入力に変換される方法です。
 この段階までコンピュータを導入してくると、従来の証憑・帳簿といった概念が大きく変容を迫られ、ペーパーレス化が進むのですが、企業内部の起票責任の明確化および商法等の関連法規が要求する会計帳簿の作成・保存規定との調整が必要になってくると思われます。

c.
 企業活動の多くの部分は、定型的な取引によって構成されている点に着目して、定型的な大量データをシステムとして自動的に仕訳処理することが可能です。
 具体的には、例えば日日の販売データをコンピュータに集積しておいて、一週間・一カ月を単位として(借方)売掛金×××(貸方)売上×××という仕訳を自動的に起こさせることができます。この定型パターンには、仕入活動・売掛金の回収・買掛金の支払・手形の授受などが挙げられ、システムが自動的に仕訳を発生させるので、経理業務の省力化が図られるだけでなく、経理知識を特には必要としなくなっていきます。
 いまひとつの例を挙げると、取引内容を摘要コードに従い入力すれば、経費項目などの標準的な仕訳を行うもので、交通費支払を選択すれば、(借方)旅費交通費××(貸方)現金××の仕訳が完了します。
 個別的異例事項が発生したときには適応できないという欠点を回避できるわけではないので、人間によるチェックが必要ですが、大部分の会計処理は省力化できるシステムが完成します。

d.
 「帳簿会計・伝票会計」の手記会計の任務が、財務会計データの収拾・整理を主としていたのに対して、「コンピュータ会計」によってもたらされるデータは、財務会計に役立つだけでなく、業務管理の分野の情報開発を目的として、いわゆる「管理会計」に属する資金繰り表の作成や財務分析、費用の固定費・変動費分解による利益計画の策定等に役立つのです。
 会計情報が外部への報告目的という狭い領域に閉じ込められるのではなく、財務という企業経営に欠くことのできない領域で真に活かされてくるものと思われます。

e.
 商品在庫の受払いにおける商品管理・在庫システム、販売業務における流通POSシステムなどライン業務におけるコンピュータの導入は、会計システムとの結合によって「統合化システム」が形成されることとなります。これらはオンライン処理によって、発生場所・発生時点で把握された各取引データを、ただちに会計データとして組み込み、各種の処理の重複化や遺漏を避け、データの信頼性の保障し、管理業務へ情報を提供することとなります。さらにLAN(企業内情報通信網 local area network)システムを導入して、企業内部の工場やオフィスに分散配置されたコンピュータや端末装置を接続してデータの相互伝送を行い、フレキシブルな生産・管理システムを構築していくことになるでしょう。また、大量の情報管理にあたっては、光ディスク・レーザーカードが用いられるようになってきました。
 統合化システムは、さらに外部とのコンピュータシステムと結びついて新たな様相を示していくことになります。そのひとつの事例は資金管理におけるファームバンキングシステムではないでしょうか。また勘定科目や相手先のコード化をさらに押し進めて、商品コードの統一化を図ったバーコードシステムは流通分野にとどまらず、外部システムとの互換性を保障しています。

第2節 経理業務とパソコン

 経理業務は、一般的に定型的な日常処理業務のほかに、非定型的な意思決定業務があると言われています。経理における定型的な大量の業務は、各種の帳簿組織を通して処理されており、特に、最近ではコンピュータ化が進み、統合システムの一環としてとらえられるようになってきたことはすでに述べたとおりです。
 さて、経理業務における非定型的な問題解決型の業務については、パソコンが利用されるようになってきました。パソコンを用いる理由は、小型で安価という特長からデスクサイドに配置して1人1台という利用が可能であること、アプリケーションソフトを利用して、手軽にプログラムを取り替え、非定型的な問題に個別的に対応しやすいことが挙げられます。 ロータス123・エクセルなどを代表とする「表計算ソフト」、アクセス・dBASE ・informixなどを代表とするリレーショナルデータベースといった作業用ソフトを用いて、シュミレーションに利用する場面が増えています。


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